2016/10/29 20:13

乾季と雨季にアフリカサバンナでヌーが大移動する映像は、多くの方が一度は見たことがあるのではないでしょうか?

アラスカ、カナダでは、トナカイが大移動する姿もあります。故星野道夫氏は写真集を出されてます。

内陸部の森林帯で越冬したトナカイが北極圏の海岸部に集結して夏に地衣類を食べながら子育てする理由の一つは、おそらく塩分でしょう。

では、エゾシカの場合はと言いますと、20年前くらいから発信機を装着した下記研究がされてまして、季節移動が確認されてます。

全く移動しないもの、・・・30km、・・・50km、・・・100kmと個体差があります。

共通するのは、メスジカは毎年同じ場所に戻って子育てすること

越冬場所は、変わる場合もあります。

例えば私の調査地の阿寒湖周辺をイメージすると、赤は越冬場所、黄色が夏の子育て場所です。青は必ずしも直線移動ではないですが移動経路とします。

青と国道などが交差すると途中で事故が起きるでしょう。

黄色は主に農耕地ですが、湿原なども含まれます。季節移動しない個体は赤の場所に通年留まることがあります。

雪どけ後に移動して、根雪になる前に越冬地に戻る 大雑把に言えばそんな感じですが、突然の大雪で予定が狂う場合もあります。

また、狩猟解禁が10月にあり、繁殖期も10,11月なので、繁殖行動を放棄して、季節移動してしまうことはないと思いますが、

狩猟者を避けて夜行性にシフトするという警戒行動は普通に見られます。

夏の農耕地は、積雪期には、遮るものがなく、冬を越すことは出来ないので、森林地帯で越冬します。

雪がやや多くても、針葉樹や傾斜地があれば越冬可能です。ササが主食なので、ササの存在は重要です。知床半島などはササが消失した場所がありますが、そうなると落葉、枝、樹皮にも依存します。保護区であれば理想です。

これらの事象は、観察していれば多くの情報が得られます。

冬は、とにかく耐えて生き延びることが重要です。脂肪の浪費は厳禁です。

一方、夏は、特にメスジカは出産子育てを成功させなければいけません。しかも4月から11月までの間に子を一冬越せるくらいに

成長させなければいけません。

そのためには、良質の餌がある方が良いです。消化も栄養価にも優れた牧草は最高です。

森の中は、春は山菜が沢山あり、夏までは樹葉もありますし大きな問題はないと思いますが、秋は山野草が枯れ牧草地に比べるとササに早くから依存することになります。一方でドングリなどのおこぼれもあります。安全性は高いです。

農耕地と森林の差異は、秋の餌の量と質だと思います。ただ、森(広葉樹天然林)の状態が健全であればどちらも致命的なものではないと思います。

では何が致命的になるかといえば、水があるかどうか、塩分があるかどうかでしょう。

どちらにもありますよ・・・だったらどうなるか?

塩がたくさんある方に行きますか?近い場所へ行きますか?

4本目で考察します。

話はややそれますが、北海道西部の日高地域は、鹿の密度が高いエリアです。競走馬の生産が盛んで牧草が沢山あります。

遺伝子解析をしている専門家曰く、日高のエゾシカは、長期間定着性が強い個体群のようです。

個人的な見解ですが、そもそも日高で生まれたエゾシカは、雪も少ない、牧草も多い、森林もある、ササもある、そして重要なことは塩分も豊富で動く必要性がそもそもないと解釈できると思います。

どこで生まれたか?、オスとメスの違いは結構重要です。







Igota,H., M. Sakuragi., H. Uno., K. Kaji., M. Kaneko., R. Akamatsu., & K. Maekawa. 2004. Seasonal migration patterns of female sika deer in eastern Hokkaido, Japan. Ecological Research 19: 169-178.


Sakuragi,M., H. Igota., H. Uno., K. Kaji., M. Kaneko., R. Akamatsu., & K. Maekawa. 2003. Seasonal habitat selection of an expanding sika deer population in eastern Hokkaido, Japan. Wildlife Biology 9: 141-153.


Sakuragi,M., H. Igota., H. Uno., K. Kaji., M. Kaneko., R. Akamatsu., & K. Maekawa. 2003. Benefit of migration in a female sika deer population in eastern Hokkaido, Japan. Ecological Research 18: 347-354.


Uno,H. & Kaji,K. 2000. Seasonal movements of female sika deer in eastern Hokkaido, Japan. Mammal Study,25:49-57.