シカは、樹葉や果実ならともかく、樹皮自体を好んで食うような草食動物ではないです。
例えば、冬期におけるエゾシカによる樹皮食いは、積雪によりササが食べられず(もしくは越冬期間中にササの葉を食い尽くしたため)生き延びるために樹皮を食いますが、樹皮の栄養は乏しいので長期間食べていると消化も悪いですし、死んでしまいます。手前の草は、葉を食われたササです。
エゾシカの樹皮食いや森林被害については、塩分と関係ないので本題ではないです。
一方、海外では塩分不足に陥ったヘラジカが樹皮を食べたという報告があります。
では海外の樹種は塩分を好んで溜め込むかといえば、そんなこともないと思いますが、相対的に草本よりは塩分濃度が高いのでというレベルだと思います。
それでも、足りていなければ何が何でも欲しいのです。そして満たされたらどうでもいいのです。
何が何でも欲しいので喧嘩もします。もはやカンガルーのボクシングと同じです。そのうち進化して二足歩行するかもしれません 笑
で、一体ここで何が言いたいのかと申しますと
国内でそのような可能性を感じる場所があります。
日本有数の多雨で有名な紀伊半島の大台ケ原です。私は行ったことがないので、論文やインターネットやテレビでしかみたことがないのですが、
冬ではなく、夏にウラジロモミやトウヒなどの針葉樹を含む樹皮を食べてしまい、木が枯れて景観が変わるほどの状況になったことで有名です。
ここで研究していた方もミネラル補給の仮説は検証していました。しかし、その仮説は立証されずナトリウムNa補給説もここでは有力視されてません。
血漿中のNa濃度は全般的には問題なかったようですが、夏に最も低い値を示したと述べてます。下記論文のデータでは少なくともササよりは樹皮の方がNa濃度は高いとされます。下記の論文では、カリウムKやタンパク質Nの過剰摂取に着目して議論してますが、私から見れば、Naの値の方がはるかに注目に値します。
Ando, M.,Yokota, H. and Shibata, E. 2004.
Why do sika deer, Cervus nippon, debark trees in summer on Mt. Ohdaigahara,
central Japan. Mammal Study,29:73-83.
Ando, M.,Kondo, M. Yokota, H. and Shibata,
E. 2005. Effects of bark on in vitro digestibility and blood plasma profiles in
sika deer, Cervus nippon, on summer. Mammal Study 30(2):93-100.
それでは、この内陸高標高地のササを主食としている鹿は、どこで塩分供給しているのか?という疑問を感じます。
例えば、天然の塩場なり、凍結防止剤なり、山と海岸部を往来しているなり、太平洋からの水蒸気が霧となりわずかな塩分も運んで樹幹流として捕捉されたり・・・・。ササだけでは不十分です。樹皮だけでも不十分だと思いますが・・・
もし、Naが体内で満たされているなら、夏場に鉱塩を置いても無視することになりますが、みんな集まり舐め始めれば、やはり足りないということになります。そもそも、特にメスが夏に出産子育てする際は、ただ生きていく程度のレベルよりもさらに多くの塩分が必要なのです。血漿の濃度だけで満たされているとは言い切れないと思いますが。胃のpH調整など様々な役割があり消化にも影響します。
補給か骨などのNa貯蔵分の取り崩しー濃度上昇要因 貯蔵分の減少は血中濃度にはすぐ反映されない
濃度が同じだから、塩分は満たされているという解釈は間違いで、何倍も得る努力が必要になっている事態と考えるべきでしょう
Na補給説を完全否定するのであれば、その2つの裏付けは必要でしょう。