2018/05/31 22:47

エゾシカや本州以南のシカは、雑食のイノシシと違い森を荒らします。
その一面を調査経験に基づき紹介しましょう。
代表的な例は、枝葉食いや樹皮を食べてしまう樹皮食いです。
樹木は、光合成産物や葉を成長させるための栄養のやりとりを樹皮のすぐ内側で行っているので、幹の中心部の心材部(年輪が形成される)では栄養のやりとりは行われていません。そのため、この樹皮の内側の形成層部分を円周状にぐるりと剥がされてしまうと、どんな太い木でも勢いを失いほとんど枯れてしまいます。円周状でなく片側などの一部であれば生存可能です。
近年の北海道でエゾシカに1番剥がされた樹種は、オヒョウとハルニレです。アイヌも繊維を利用していたのですが、比較的太くても樹皮を剥がしやすい樹種です。
そのためこの2種は、細い木だけでなく中大径木50cm以上(100cm前後も)の胸高直径の木も沢山樹皮食いされました。
この樹種は河畔に群落を作りやすいので、越冬地において河畔林をよく利用するエゾシカの集団に積雪期にどんどん食べられました。阿寒湖周辺では1990年代に短期間のうちにニレ属中大径木数百数千の木が被害を受けました。

例えば阿寒湖周辺のエゾシカ越冬地、阿寒川上流域。
この流域でハルニレやオヒョウの樹皮食いが沢山見られていた1993-1996年頃の河畔林です。手前の雪の上の草本は、葉を食べられたクマイザサの稈です。

この結果、大きな立ち枯れ空間が出来たのです。通常ギャップと言います。台風や大雪、寿命さまざまな要因で大小のギャップが森の中に出来ます。世代交代のチャンス到来ということです。
葉が繁茂した樹上の林冠が立ち枯れや倒木で穴が開いたようになり、林床に光が射し込むようになります。つまり下層のササや幼樹などは大喜びするわけです。ただエゾシカによる樹皮食いは適度なギャップではなく、以下の写真のような荒廃的なものになる場合があります。
同じエリアの2009年頃の様子です。樹皮食い後15年くらい経過した森の様子です。
細い木は既に倒れ、大きな木は幹だけが枯死したまま立ってます。
巨大なギャップ、下層は一面クマイザサです。
同じ場所に8月頃に行くと、ギャップ林床に一面黄色い花をつけた大きな草本が生い茂っていました。これがキク科のハンゴンソウです。
春は一面ササだらけでも、夏に行けば様相は変わります。ハルニレやオヒョウニレは消えて、樹皮を食われていないイタヤカエデなどの森になっています。全体的には明るい森になっています。ちなみにササの高さは1m以下です。
ライバルのササやフキやシダに混ざって、ハンゴンソウは生えています。上写真では奥の方。
2、3mを超えるハンゴンソウも沢山生えてました。

下記、阿寒湖周辺で行われたエゾシカの生息密度と森林植物の研究論文に書かれているハンゴンソウに関する記述では、1995年頃のエゾシカの生息密度が高く、同時に不嗜好植物であるハンゴンソウが目立っていた場所では、エゾシカの減少に伴い2002年頃には消失したと述べています。
阿寒国立公園におけるエゾシカ生息密度の低下に伴う林床植生の変化
保全生態学研究 17(2), 185-197, 2012
https://www.jstage.jst.go.jp/article/hozen/17/2/17_KJ00008327542/_article/-char/ja/
エゾシカが好まない不嗜好植物のハンゴンソウは、エゾシカが増えると増えて、エゾシカが減り始めたら消失した。
個体数の変動と連動すると示唆しています。上記の論文では、エゾシカが冬に主食として利用するササが生息密度の減少に伴い回復して、ハンゴンソウが競争に負けてしまった。つまりハンゴンソウは、ライバルであるササをエゾシカが食べてくれていたおかげ?で繁茂していたということかと思います。
要約抜粋:「嗜好性植物であるクマイザサやカラマツソウ属、エンレイソウ属の被度若しくは植物高が増加傾向を示し、不嗜好性植物であるハンゴンソウが消失した。阿寒湖周辺では、エゾシカの生息密度の低下によって、採食圧が低下したために林床植生が変化したことが示唆された。以上のことから、エゾシカを捕獲し、生息密度を低下させることは、高密度化によって衰退した林床植生を回復させるための有効な一手段であると考えた。
論文を見ると、不嗜好植物ハンゴンソウが被度5%以上で生えていたのは、7地点の調査区のうち元々2ヶ所であり、そのうち特に多かったのはE区の対照区であったようです。対照区というのは、植生に対する鹿の影響を調べるために柵を設置して鹿を排除した区画の鹿排除区と、鹿が自由に出入り出来る区画の対照区を設けたということです。つまり鹿が自由に出入り出来る場所にハンゴンソウが生えていたということになります。
要約の通りであるなら、このE区の対照区で、鹿の生息密度減少に伴い嗜好植物に対する採食圧が下がり、クマイザサなどが回復して、種間競争などの理由からハンゴンソウが消失したということになると想像できると思います。
しかし、論文の数値では、E区対照区のハンゴンソウが消失する過程で、ライバルの嗜好植物のクマイザサが増加をしたということもなくむしろ減少しており、他の優占植物ほぼ全ての被度が下がっており、2000年にハンゴンソウが消失したとされています。
これは、エゾシカの影響でも何でもなく、何らかの理由でハンゴンソウがただ消えただけのことではないのでしょうか?
もう1か所F区対照区では、クマイザサの増加とハンゴンソウの消失に関連性がありそうですが、被度5%のハンゴンソウが2001年に1か所消失したからといって、全体に当てはめるのは無理があると思います。
仮に鹿の影響について論じるのであれば、通常は、鹿の排除区では植生が回復してクマイザサが繁茂して、ハンゴンソウが消えた。対照区では、鹿の影響で嗜好植物のクマイザサが消えてもしくは衰退して、ハンゴンソウが繁茂した。
というようなものでないとすっきりしないわけで、何のための排除区なのかもこの論文は曖昧です。
対照区で起きたことは、生息密度の低下に伴う採食圧の低下ですと主張しても、
論文の生息数調査のデータでも鹿が明瞭に減少を始めたのは2001年以降であり、鹿が減少する前にササに対する採食圧が低下してササが回復してハンゴンソウが消失したというのであれば、それは生息密度とは関係なく、対照区の2m四方に存在していたササが単純に近くに鹿はいたが食べられなかっただけという解釈も出来てしまいます。2m四方で調べるということは、鹿の行動から見たら、少しでも脇にそれたら何も変化ないというレベルのサイズです。
対照区は、必ず鹿の採食圧を受ける保証はどこにもありませんから、そのために排除区を作り比較するわけです。
この点をはっきりしない限り、少なくともハンゴンソウについては、この論文のデータから鹿の生息密度との因果関係は分からないのです。

この論文では、生息数減少開始後かなり早い段階で消失したと述べていますが、当時私が阿寒湖周辺で見ていた状況とはハンゴンソウについては全然異なります。

論文の内容は、当時の阿寒湖全体の現象を反映したものなのか、またエゾシカと不嗜好植物ハンゴンソウの関係をきちんと説明しているのかどうかを補足したいと思います。ちなみに、不嗜好植物には、毒があるもの(例えばトリカブト)鋭い棘があるもの(例えばアメリカオニアザミ)消化不良を起こすもの(タンニンやシュウ酸など)があり、ハンゴンソウは消化不良タイプでしょう。

上記論文で、シカの越冬期の個体数調査は、空からヘリコプターを使った調査で行われ、阿寒湖の北部から南部まで数千ヘクタールの森林で調査しています。

また、ここで使われている個体数の変動は、越冬地の越冬期に限った数値です。論文には、阿寒湖周辺はエゾシカ の越冬地で、春になれば阿寒湖周辺から離れた場所へ移動してしまう個体と一年中阿寒湖周辺にとどまる個体がいるとして、越冬期の個体数が減れば春から秋に阿寒湖周辺にとどまるタイプの個体数も恐らく減るだろうという仮定で話をしています。ハンゴンソウは、冬に食べられるニレの木と違い、春から秋に食われるか否かの草本です。嗜好不嗜好という議論を展開するならば、春から秋のエゾシカの生息密度に基づくべきものです。
阿寒湖周辺の場合、1990年代の高密度期でも、夏季に冬のようにエゾシカを多数見かけることは少なく、越冬地の位置づけです。

一方で、ハンゴンソウなどの下層植生調査区は2m四方が7地点です。その7地点のハンゴンソウの有無や変化から、広大な阿寒湖周辺で見られた現象を反映出来るのか否かという点、特にハンゴンソウについて反映されていたかという点です。

そもそも、植物は、食われるか否か以前に、種子分散、光、水、栄養などがあって存在するものです。

植食者による嗜好不嗜好というのは、一要素に過ぎません。さらに植物間の競争があります。不嗜好植物種の増加、特にハンゴンソウであれば冬ではなく夏に不嗜好ということになり、嗜好植物種が夏の間に食われて、生息密度が高い場合は嗜好植物が採食圧で消失して、不嗜好植物種だけ残るというのは、年中鹿が定着している島や草原のような環境でよく観察されます。しかし、夏は季節移動で鹿があまり多くなく、ハンゴンソウが枯れて存在しない冬のシカの生息密度の方が高く、草原ではなく森の中の不嗜好植物種をここでは扱っています。

私の見解は、上記論文には当時の阿寒湖周辺で見られた現象は一部分しか反映されていないと思いますし、ハンゴンソウとエゾシカの関わりについても一部分しか捉えていないと思います。
論文では2002年頃にはハンゴンソウが消失したとありますが、私が見たのは、その逆で2000年代の阿寒湖周辺はハンゴンソウの大群落形成期です。

2000年以降も捕獲圧で年々エゾシカは減少していたので(この部分は相違ないです)、論文の通り阿寒湖周辺でライバルのササが回復して不嗜好植物ハンゴンソウが消失していけば、2009年頃に2、3m近くの巨大なハンゴンソウと一緒に写真なんか撮影出来ません。
さらにその5年後ますますエゾシカは減少しましたがハンゴンソウ群落はそんな簡単に消失していません。今でもあちこちに生えてますよ。

別の場所でも、ハンゴンソウが無かった場所で(それ以前はササが覆っていた場所で)ハンゴンソウの巨大な群落形成が見られました。そのうち画像をアップしましょう。上記の論文とは真逆の現象で、論文中のハンゴンソウが消失したというEFG区の目と鼻の先の距離で起きていたものです。ここに掲載した画像はすべてそのような場所のものです。森というのは複雑で、研究者が設定した小さな調査区で全部説明出来るほど単純ではございません。仮に2m四方の調査区を設置して、数千haのエゾシカの生息密度との関連性を議論するのであれば、草本の調査区は阿寒湖周辺に50-100くらいは必要でしょう。

私の見解は、ハンゴンソウは光と土壌栄養に依存して、その影響を受けやすいと思います。

まず光 エゾシカが森で樹冠を形成する大径木を枯らせた場合、林内が明るくなり下層にもギャップを中心に光が届くようになる。
このような樹皮食いは冬期に生じるので、冬の生息密度と樹皮食いの発生はハンゴンソウにもササにも(その他大型植物として林内ではフキ シダ類 ヨブスマソウなど 林縁ではイタドリがある)プラスの影響を与える。

ただこれだけではハンゴンソウに優位にはならない

エゾシカの冬期の主食はササの葉です。ここでエゾシカは、最大のライバルにダメージを与えることになる。ただし、クマイザサやチシマザサのような葉の寿命が数年ある種に言えることであり、ミヤコザサのように葉の寿命が1年のササにはダメージにはならない。阿寒湖周辺はクマイザサです。エゾシカの採食圧をクマイザサが受け続けた場合は、稈が低く葉が小型化し密度も低下したりします。その逆の条件下では回復もします。阿寒湖から南下していくと雪が少なくなり太平洋側に広く分布するミヤコザサが優占します。同じ鹿の生息密度でもライバルがより手強い相手となりますから、ハンゴンソウが群落を形成するのは難しくなるでしょう。

ササ以外のライバルのフキやシダ類をエゾシカが食べるとすれば、主に春から初夏につまみ食いする場合でしょう。この場合は春から夏の生息密度が影響する。夏季にササの葉を食べることもありますが、エゾシカの場合は、牧草類を含む他の餌があれば積極的に食べることは無いです。

ハンゴンソウが、全く存在していない場所に新規で定着する場合もしくは定着後に光をめぐる競争を繰り広げる場合、ササのような多年生の植物の有無やフキのように大きな葉を広げて覆ってしまう植物の存在は、強力なライバルとなるでしょう。

このように、天然林におけるハンゴンソウとササとエゾシカの関係を考えた場合には、恐らくエゾシカの夏の生息密度よりも冬の生息密度の影響を受けると思います。さらに大径木の樹皮食いによるギャップ形成後の光環境の好転は、その後のシカの生息密度の増減に関わらず長期間続くものです。


2013年阿寒川上流 過去に生じた樹皮食いによる大きなギャップとハンゴンソウ群落


フキvsササ

ハンゴンソウvsササほか 凄い競争
ハンゴンソウの高さは2m以上
土壌栄養が豊富な場所は葉の色が濃い
シダvsフキvsハンゴンソウ

次は、土壌栄養です。
ハンゴンソウのように大型の草本は、土壌が肥沃であれば、上記写真のように2,3mに成長可能です。
1m程度のハンゴンソウもあれば3mもあるということです。そのためには光、水、養分が必要です。
森の中で、土壌栄養の移動に大きな影響を与えているのはエゾシカです。
これが農耕地に近接する場所であれば尚更農耕地で食べて森で休んで排せつするのですから、栄養分は供給されます。
ハンゴンソウは、森の中の植物というわけではなく、牧場の牧草地の中でも、道路脇や農耕地脇でも見られます。
ここでは、森林に限定します。
林内において、エゾシカは、餌場、移動経路、休息場を有します。なわばりはないです。
冬の林内は長期間深い雪に閉ざされて、さらに越冬集団サイズが大きいほど、排せつされた糞尿の痕がくっきり残ります。
よく見られる場所は、積雪期の休息場に使われる常緑針葉樹の樹冠下、根の周り。
雪が積もりにくい餌を掘りやすい斜面。道路や林縁斜面の場合は特に南向きの雪どけ早い場所。
餌場と水飲み場と休息場を行き来する通路(なるべく同じ場所を通る方が踏み固められて歩きやすい)。
これらに集中的に窒素やリンを含む糞尿が投下され続ければ、林内のミネラル濃度は偏りが生じます。
例えば、針葉樹の樹冠下で調べた場合、有意な違いがありましたし、糞尿でミズナラのどんぐりを栽培した場合、稚樹の成長にも差異が生じます。いずれ画像やデータはアップします。

同じ鹿の個体数でも、積雪が多い年多い条件下ほど、この偏りは大きくなります。行動や分布が積雪により制限されるためです。鹿の利用頻度が高い場所において、雪が多い年は同じ場所でもササの葉の食い残しが少なく、雪が少ない年はササの一冬の総採食量は多くなりますが1か所当たりの食い残しが多くなります(どこでも食べられる状態なら特定の場所で食べる必要が無いということです)。これもいずれデータはアップ致しましょう。

毎年集中的に同一場所のササに対する採食圧がかからないとササは元気なままです。葉の食い残しが少ないほどクマイザサにとってダメージが大きく、ハンゴンソウの侵入に隙を与えることになります。

餌場を大集団が繰り返し長期利用すれば、餌場の周りにハンゴンソウの森が誕生します。これも画像はいずれアップします。
もちろん栄養が投下されれば、ササやフキも大きくなりますが、ハンゴンソウほどは巨大になれません。
特に垂直方向に対しては敵いません。
鹿の死体、ヒグマの糞、タヌキのため糞トイレ、知床などではサケマスの死体なども栄養源になるでしょう。
夏の農耕地に近接した森や雪深い天然林の越冬地では、エゾシカを介して土壌栄養に偏りが生じ、それをハンゴンソウは巧みに利用できる植物であると思います。

エゾシカの夏期生息環境 牧草地におけるハンゴンソウ群落
牧草vsササvsハンゴンソウ
夏季にエゾシカの採食圧を受けるのは牧草、ウシがいればササも食われる。
光は十分ですが、ハンゴンソウが最初に侵入して群落を形成するのは、斜面下部、谷部分に列状に形成
つまり土壌栄養と関連性があるだろうと思われる。

同じくハンゴンソウ群落は左、右の木立周辺がササ、それ以外が牧草
鹿の牧草採食圧だけみれば、林縁に近い斜面上部の方が高いが、だからといってハンゴンソウが斜面上部に多いということにはならないのです。

もちろんハンゴンソウがエゾシカの嗜好植物であれば食べられてしまいますが、かといって不嗜好植物で食べられないから増えるという単純なものではないでしょう。
仮にエゾシカが多少減っても、森林空間で冬期に集中的に使う場所のパターンは決まっており、その付近の生息密度の変化の影響はほとんど受けません。言い換えると夏期にランダムに植生調査区を設定しても、冬期の利用頻度と大きくかけ離れる場合があります。受けるとしても、目に見える変化は、相当生息密度が下がらないと起きません。私が目に見える変化をそのような場所で確認したのは、2013年頃であり、上記論文でハンゴンソウが消失したとされる時期よりも10年もあとのことです。
阿寒湖周辺における2005年頃からの冬期捕獲数を見ても、2011年頃まではある程度の越冬数は維持されていたものの2012年にガタッと落ちています。積雪条件に左右されず捕獲数が低いままということは、言い換えれば鹿はほとんどいなくなったということを概ね意味します。




よって、利用頻度が低い空間に植生モニタリング調査区を設置すれば、エゾシカが減ってハンゴンソウがすぐに消失したという結果になり得ると思いますが、利用頻度が高い場所に設置した場合は、上記の論文のような結論にはならないと思います。
また、ハンゴンソウが不嗜好植物だからといって、他の環境要因を評価せずに、生息密度との相関関係を論じるべきではないと思います。

このようにして、エゾシカの個体数、生息密度、空間的な利用頻度、ササに対する採食圧、林内における糞尿の集中分散に見られる年変動が、ササvsハンゴンソウの競争関係に影響を与えると考えられます。阿寒湖周辺の場合雪が少ない年が続けば、鹿の生息密度が余程高くない限りハンゴンソウにとっては都合が悪いのです。実際2000年代の阿寒湖周辺は、雪が多くハンゴンソウ群落が形成されやすい条件が整っていました。鹿の個体数が減少しても、積雪がその分をカバーして、利用頻度が高い場所ではササよりもハンゴンソウに有利な条件を与えただろうと考えられます。一方2010年代は、鹿も減少し、雪も少ないという年が目立つようになり、同じ場所でもハンゴンソウ群落の縮小とササ群落の巻き返しが起きていました。
http://npo-hokkaido.or.jp/pdf/20180515sekisetsu_pt.pdf

黒茶は、土ではなく鹿の糞 鹿の道
樹皮食い木から樹皮食い木へつながる鹿道鹿糞
針葉樹の樹冠下 休息場 根張り周りの鹿糞 
林内凹凸斜面上に堆積した鹿糞 ササ葉は全て食い尽くし 
こういう場所のクマイザサの高さは、強度な採食圧で10-20cmくらいしかないものが沢山ある。
そのうちデータをアップします。
鹿糞堆積場から芽生えるハンゴンソウ
積雪期に地表面を掘り起してくれることも種子の定着に有利に作用しているかもしれない

まとめると
エゾシカの嗜好不嗜好植物の分類上不嗜好植物として位置づけられるハンゴンソウですが、
そのハンゴンソウ群落の出現や増減には、エゾシカという動物の影響は強く関わっていると思います。
しかし、単純に「鹿に食われないから鹿が増加すると増える植物」という観点で見ると、見誤ると思われます。
もしそうであれば、夏に鹿が少ないエゾシカ越冬地の阿寒湖周辺で、鹿の減少期にハンゴンソウの大群落形成が見られた説明がつきません。
むしろハンゴンソウは、光や土壌栄養の獲得、林内であれば最大のライバルであるササとの競争において、
樹皮食いギャップ形成による光環境好転、糞尿による土壌栄養の好転、鹿が冬期にササを食うことによるライバルの減少という冬のエゾシカの採食行動や生息密度の影響を受けていると思われます。南向き斜面や林縁部でも似たような条件が揃いやすいです。雪どけが早く、鹿が集まりやすいためです。
鹿の生息密度が減少すると、どうなるか?
特に利用頻度が低い場所では、すぐにその影響が出始める。糞尿の供給も、ササの採食もなく、ササに負けてしまうでしょう。最初にハンゴンソウが姿を消すのはそのような場所です。
森の中で利用頻度が高い場所では全体の生息密度の低下の影響は一番最後に現れます。多少鹿が減った程度では変わらないのです。
過去に生じた樹皮食いによるギャップ形成がもたらした光環境の好転は続きますが、それはライバルのササにとっても同じことで、鹿の減少によりササが食われないのであれば、ササも回復し、そのササとのライバル競争に必要な土壌栄養も十分供給されなくなると、ササの勢いがハンゴンソウを上回り林内では衰退してしまうことになります。

エゾシカの越冬地における個体数、生息密度、空間的な利用頻度やその偏り、ササや樹木に対する採食圧は、積雪や地形の影響を強く受けます。総合的に見なければ、ハンゴンソウとエゾシカの関わりは見えないと思います。




フキ葉はとにかく早春からスピード重視 そして巨大な葉傘を展開しライバルを被陰する
ササは地下茎で横方向連携、光合成の早春スタートは前年までの葉に頼り、当年葉はのんびり1枚ずつ増やす順次開葉
フキやハンゴンソウが光合成をしているのは夏まで、夏の終わりには枯れてしまいます
ササは、ライバルが多い初夏には無理をせず、ライバルが枯れてからでも光合成出来ます
その前に稈をどの高さに持ってくるかを見定める。このクマイザサの稈は、ライバルのフキの高さの限界を見定めてから、グイッと地下茎から稈を伸ばしたということです。植物は実にしたたかです。



上記のクマイザサやチシマザサは、地下から出す稈と稈の途中から分枝する稈がある。
ミヤコザサは全て地下から出す稈のみで稈に投資するコストがかかる(なぜミヤコザサは地下からしか稈を出さないのかというと葉の寿命が1年で、積雪が少ないところに分布しているので、雪どけが早いメリットはあるものの、冬に寒気を遮断してくれるだけ雪が積もらないので、寒冷適応で安全な地下に冬芽を付けているためです)。
節約するなら、全部分枝の稈の方がいいのでは?と思うかもしれませんが、横方向に分布を拡大させるためには、地下茎から稈を出すことが不可欠なのです。だからクマイザサやチシマザサは、両方使い分けをします。
つまり、ミヤコザサは浪費型、クマイザサは節約型、豪雪地に多いチシマザサ(根曲り)はさらに超節約型(少雪地に多いスズタケもこれに近い)。節約しているのに冬にまだ翌年も使える葉を鹿に食われることは、相当迷惑なのです。でもライバルたちには都合がいい。根曲りのタケノコを採取して、秋田でクマに襲われる事故が多発しました。
ササについては、また書きます。
鹿は森にとってマイナスであるというのは攪乱の程度の問題であり、鹿が全くいない攪乱がほとんどない状態になったら、それもまた森はダメになると思います。

知床半島の森林調査区のギャップにホオノキという樹木があります
ハンゴンソウは草本、こちらは木本ですが、ライバルがササであることとギャップ(光の獲得)でグイッと伸びてササに対抗していることは、よく似ている。
ホオノキは地上部に落ちた実生からの更新もあれば、萌芽で親株から更新する場合もある