2018/10/24 23:17

こんな記事がありました

北海道内 エゾシカ事故多発 エサ不作で昨年過去最多、今年も要警戒

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181024-00010000-doshin-hok&fbclid=IwAR3GEUWDAtDPG9sUNtwJ4dw8Y8k4HbLrMuZopIfXrZglVe-tC6njvZKd9jY
ドングリ求め人里にも出没
 車との衝突などエゾシカが関係する交通事故が2017年に道内で2430件発生し、調査を始めた05年以降で最も多かったことが、道のまとめで分かった。エゾシカが好んで食べるドングリ(ミズナラの実)の不作などが要因とみられる。今年もドングリは不作で、事故は例年、10、11月に集中していることから、専門家は「エゾシカの習性をよく理解して安全運転を」と呼び掛けている。
この記事は、まともそうに見える見解ですがいくつもの突っ込みを入れたくなる点があります。

まず、ドングリの豊凶とヒグマ ツキノワグマの出没はその通りだと思います。
ヒグマについては、道南に分布するブナ 全道に分布するミズナラ、やまぶどう、こくわとの因果関係が報告されています。
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/skn/higuma/H30akiminari.pdf

恐らく上記記事も、この延長で、エゾシカ出没と交通事故との因果関係を論じていると思います。

しかし、交通事故は、エゾシカの分布が1番影響しているのか、個体数の増減が影響しているのか、交通量が影響しているのか
いろんな解釈が出来てしまいます。

例えば、過去10年くらいで捕獲圧を相当かけているため、全体の生息数は間違いなく減っています。
しかし、道北や札幌周辺などでは一部増加しているところもあります。
つまり交通量が多い場所で増えているわけですから、事故は他の条件が同じでも起きやすくなっているわけです。

季節的な要因は秋に多いと言うのはその通りだと思います。オスジカの繁殖行動が活発になるため行動範囲も拡大しますし、注意力も散漫になりやすいです。ただそれは、繁殖♂に言えることで、それ以外の要因は日没が早まることも一因ですし、狩猟による逃避行動も影響すると思います。狩猟の解禁は、最近は場所によって開始時期をずらしたりしておりますので、そういう条件がバラバラだと過去の交通事故件数と単純比較は出来ないかもしれません。
また比較するのであれば、秋の2,3か月だけのデータを使わなければ、ドングリがどうこうと比較できないと思います。冬や早春の交通事故件数データも入れば積雪の年変動の影響も関係してきますから。

また、どんぐりの豊凶と言っても、カシワ、ミズナラ、ブナなどが総じてどんぐり堅果をつけますが、ブナは主に道南にしか分布しておらずエゾシカの主要な分布域とは重なっておらず、カシワは海岸に多く、そうなるとここで候補となるドングリとはミズナラということになります。

上記のpdf報告のミズナラの豊凶データだけみると、大雑把に言えば1年おきに良い悪いを繰り返しているようにも見えますが、ずっと悪い年xxxxと連続している地点も多いようです。
豊凶と関係するというなら、毎年悪い場所のデータ除外して相関調べないと何とも言えないと思います。
仮に、すごい悪い年が2011年と2017年だとします。
では逆に、どんぐりが豊作の時は、交通事故減るんですか?という質問に答えられるでしょうか?
2008年以降ドングリの豊凶と交通事故の増減が見事相関しているというのであれば分かりますが、ずっと1500件以上で、その間ミズナラ豊作年は無いのでしょうか?2014年(以下の牛の死亡ニュース年です)とか豊作に近い感じですが、交通事故件数落ちていませんし。

視点を変えます。

「エゾシカは春夏に雌雄で別々に過ごすが、繁殖期の秋は雄が雌を求めて活発に移動する。越冬に備えて脂肪分が豊富なドングリを好んで食べるが、不作だと人里などにも餌を求めて行動範囲を広げる。」
新聞記事にこう書いてありますが、

そもそもエゾシカは春から秋まで主に農耕地周辺を好んで利用する個体が多く、森林内で過ごすものもいますが(例えば知床国立公園内のエゾシカ)前者であれば、例えば牧草を春から秋まで牧草地に依存している個体は、牧草地まわりの林でドングリが不作だからといって、牧草地から離れて生息場所をシフトすることはないと思います。なぜなら、子ジカにとってもメスジカにとっても1日5-10kgの餌を効率よく得られる場所は雪が降り出すまでは牧草地であり、雪が降る前に非効率的に林地でどんぐりを探し回るほどドングリに魅力は無いでしょうし、まして牧草地そのものから離れたら、繁殖効率も下がります。
知床国立公園で例えば10月に入り林内の餌がササなど一部を除いて枯れて乏しくなり、道路脇の法面(つまり牧草)を食べるため道路脇に出てくることはありますが、これは豊作だから出て来ない不作だから出てくるということにはならないと思います。
なぜなら、どんぐりは牧草より好まれることはなく、どんぐりばかり食べたら死んでしまう可能性すらあるからです。目の前にあれば拾い食いはすれども、それを選択的優先的にに食べ続けることはないと思います。

例えば、最近のニュース

北海道新聞 1/17(火) 6:30配信

15 ドングリ食べ過ぎで中毒死 北海道の集団死で断定

北海道オホーツク管内の牧場で3年前に発生した牛の集団死は、「ドングリの食べ過ぎ」が原因―。網走家畜保健衛生所(北海道北見市)がこうした研究成果をまとめた。牛では国内で初症例。一般的に牛はドングリを好まないが、この牧場ではドングリが大量に落ちていたという。

同衛生所によると、集団死は2014年9月から10月の間に管内の公共牧場で発生。放牧していた肉用牛13頭と乳用牛2頭の計15頭が腎臓の障害などで相次いで死んだ。同衛生所が解剖したところ、牛の胃やふんから大量のドングリの殻が出てきた。血液からはドングリの成分の一つ「ポリフェノール」が検出された

どんぐりは、はっきり言って良い面悪い面両方あります。特にミズナラどんぐりはタンニン含有率が相対的に高い種類のどんぐりなので、急に沢山食べたり、大量に摂取したら、タンパク質の消化にも支障をきたしますし、繊維を含まないデンプン質の餌は、鹿の胃の発酵システム上良いとは言えないです。牛でも鹿でも同じです。彼らの基本はあくまで繊維の消化とルーメン微生物活動の正常状態の維持です。繊維の消化活動に重要なpHの維持は主に反芻時の大量の唾液分泌とそこに含まれる炭酸水素ナトリウムによる中和によりますが、内陸部に生息して塩分が十分に摂取できなければ、ドングリを大量に食べてpHが低下した時に中和も十分に出来ないことになりかねません(塩分Naについては過去のblogに書いた通り)。

タンニンのタンパク質結合特性が、皮の鞣し タンニン鞣しへの応用ということです。

ネズミもどんぐり食いすぎたら死んでしまいますよ。

そうでもなければ、どんぐりは一方的な奉仕になってしまいますので。

奈良公園でどんぐりの給餌とか鹿公園でやってますけど、どんぐりにも種類があるので、選んであげないといけませんよ
ミズナラどんぐりは止めた方がいいと思います。

上記の記事では、
越冬に備えて脂肪分が豊富なドングリを好んで食べるが」ともありますが、
私の分析結果では、ミズナラのどんぐりは脂肪分は豊富ではありません。脂肪分が豊富なのはクルミで、所詮どんぐりはデンプン 糖質です。

むしろここでは対象外のブナの実の方が脂肪分が多いのではないかと思いますし、本州ならカシの木の方が富んでいると思います。なので、クマがブナの豊凶、とりわけ秋にブナの実を食べて脂肪蓄えるのと、鹿がミズナラどんぐり食べて脂肪蓄えるのは、消化のメカニズムも全く違う動物なので同列には扱えないと思います(イノシシと比較する場合も違います)。鹿の場合、牛もそうですが脂肪を摂取して脂肪を蓄えるわけではないと思います。脂肪の多い餌を大量に摂取することは繊維の消化に悪い影響を与えかねません。濃厚飼料を摂取すれば脂肪も付きやすくなると思いますが、クマやサルみたいに奥山から不作だから出てくるというより、どんぐりの豊凶に関わらず、農耕地で大豆やデントコーンを狙っている鹿は毎年つまみ食いしています。

牧草をモリモリ食べて、秋に肥えている鹿は沢山いますので、どんぐりは所詮おまけに過ぎないと思います。

なので、ヒグマほど明瞭な傾向にはならないのではというのが個人的な見解です。

鹿の胃の中身 秋↓