2019/10/28 07:12

道内26カ所のエゾシカ地域個体群の自然死亡(冬期の餓死)に与える積雪の影響と過去30年以上の変動パターン

を公開致しました。

これを見れば狩猟や駆除圧、事故病気以外の影響は、現地に行かなくても、概ね推測出来ます。
下記の図で棒グラフの低い年は、厳冬期例えば2月後半でも脂ののりが良いままの個体が多くなります。棒グラフが高いと同一場所の同時期でも正反対になります。目視でも分かるくらい差異が顕著になります。

積雪条件以前に、慢性的な餌不足に陥るほど生息環境が変化した場合は別途評価が必要になります(例えば冬期の主食であるササが開花して枯死したなど)。

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尚資料の1行目2017-2018とありますが、修正し忘れです。データは2018-2019で更新済みです。

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尚資料の1行目2017-2018とありますが、修正し忘れです。データは2018-2019で更新済みです。
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ニレの樹の垂直断面です

鹿が剥がして、食べるのは樹皮のすぐ内側の僅かな内皮部分(栄養 樹液の通り道 生きている細胞)(中心部分の心材は死んだ細胞 年輪が見られる部分)で得られる栄養は僅かです。

うち4箇所 阿寒摩周、知床の例

同じ国立公園内でも同一年でもパターンが異なる場合があります。

夏の子育て場所が同じでも、冬は別々の場所で越冬すると、

餓死や翌年の出産への影響はそれぞれ変わる。

宇登呂側と羅臼側は距離的に近いが、積雪のパターンは異なるので、

鹿に対する影響も異なり、樹皮食いも同様に異なる場合がある。

ただし、傾斜地が多いと積雪の影響は緩和され、越冬期における落ち葉などの採餌には有利に働く。










1995-96年の阿寒湖畔における樹皮食い画像です。
エゾシカは、ウマと違い一番前の歯は上顎にはなく、下顎のみです。
頭骨標本 わかり易いです(馬もあり)http://kemonotachi.g1.xrea.com/honee-sika.htm
よって、樹皮のように垂直に立っている植物を食べる構造にはなっておらず、冬期の空腹を満たすために仕方なく食べています。
食べる時は、下顎の門歯で削る、引きちぎるという表現が正しく、ネズミのように齧るという感じではないです。
この食べ方をする際に、効率が良い樹種は、剥がしやすくて縦に引きちぎり易い樹種です。その代表格がアイヌも繊維利用しているオヒョウニレです(ハルニレもそれに近い)。
上の2枚の画像は首を使って上方向に引きちぎっている瞬間です(当時はフィルムカメラで撮影が大変でした)。
左下のニレは高さ3mくらいまで剥がされていましたが、成獣のオスメスが後ろ脚で立ち上がり、樹皮を剥がしていたところ、二又の樹幹に前脚が引っかかってしまいそのまま抜けなくなって死んでしまいました。
このように高さ3mくらいまで樹皮食い痕が見られるのはニレくらいです。
それ以外の樹種は、シナノキのように剥がしやすい樹種もありますが、多くは薄くて堅い樹皮です。
連続して剥がしやすいわけではないですが、イチイのように柔らかいので削りやすい樹種も好まれます。
また、倒木は樹種に関係なく、樹皮食い痕が多く見られる傾向があります。
これは体勢の問題でしょう。つまり立木よりも倒木を食べるのに向いているということでしょう。鹿にとって、木本の枝葉は容易に食べることが出来る餌ですが、垂直な樹皮の剥皮は非常に面倒な行動です。

さらに、樹皮は冬期の主食であるササの葉よりも栄養価も低く、消化性もリグニンという難消化性の成分が多いため、主食にはなり得ません。イチイやイヌエンジュには毒もあります。ところがイチイはよく剥がされます。
雪で餓死寸前の状態の時には、それを補うために脂肪を燃焼させていきますが、それでも長期間は維持できません。なんとか不足分を樹皮や枝(樹皮より優先)などの木本類を食べて補おうとするわけです。ですが特に樹皮は、絶対的な栄養価が低い餌なのです。

そのような状況下では、何を重視するかと考えた場合、とにかくエネルギーの浪費をせずに(節約)、量を確保することだと思います。言い換えると、雪深い森の中における索餌効率、樹皮食いする時の採餌効率の両方です。
シカは、餌があっても、冬になると採食量自体が減ります。冬眠はしないけども、代謝が低下して省エネ型にシフトしていると思われます。

ニレの場合は、河畔林にまとまって存在していることが多い樹種で、シカは、匂いで嗅ぎ分けており、樹皮食い期間中足跡をたどると、ニレの木からニレの木に鹿道が出来ており、左右にふらふらいろんな樹にアタックしまくるというような不経済不効率なことはほとんどないです。そしてニレは剥がしやすいので採餌効率がいい。つまり短時間に少ない労力で量を得られます。左下の画像のような剥皮も成獣なら数日以内に完了してしまいます。一方剥がしにくい樹種は、同じ量を得るのに、何倍何十倍も時間も労力もかかるのです。
そのような無駄な労を脂肪を浪費してまでするでしょうか?、しないでしょう。
それと、脂肪を消費する前に、なんとかエネルギー源繊維質を補給摂取しないと危険な状況になりますので、このような状況下では「質より量」は重要です。また、消化といっても胃液を出して消化する動物と違い、まず微生物が活動して消化していくので、微生物にとってどうなのかが重要です。
そもそも樹皮は草本に比べれば、低質で消化性も悪いです。樹種間で多少差異があり、相対的に消化性の良い樹種(例えばリグニンの含有率が低い樹種)があっても、「量より質」を重視して、雪をラッセルして脂肪を浪費しながら探し回り、ようやく見つけたら、剥がすのに何日もかかりさらに無駄なエネルギーを費やすなんてことは出来ないでしょう。そんなことを繰り返したら死を早めるだけです。
もし、消化性や餌の質を樹種間で重視して、非効率な樹種選択を行っているとすれば、剥がしにくいが消化性や餌の質がいいか同レベルの樹種が、もっとニレと同時に剥がされていてもいいはずですし食痕やアタック痕が見られてもいいはずですが、実際にはニレは採食量や採食面積で群を抜いていますし、真冬の雪山の足跡を辿ってもそういう冒険的な索餌採餌行動はしていないです。
それから、リグニンが多いとされる針葉樹のイチイも他の広葉樹よりも先に食われていますので消化性を優先しているとは思えません。
真冬の倒木や伐採木に群がるエゾシカの行動を見ても索餌効率、採食効率、剥がしやすさ(食べやすさ 姿勢)を重視していることがうかがわれます。
鹿にとって嗜好性が高い餌は、栄養価も高く消化性もいい餌と考えるのが通常ですが(雪が無い時期はそうでしょう)、樹皮の場合は、嗜好性が高い樹種の樹皮=優先的に探して食べるとは限らないと思います。
そして最後は、樹皮を食べ続けて餓死するか(例え選択性が高いニレですら長期間食べていれば餓死します)、歯が立たないような樹種の樹皮は食べないというか食べられずに残るということです。

例えばこんな論文があります
イチイのリグニンの相関説明出来ていませんよね↓
エゾシカの樹皮嗜好性と小径樹幹の内樹皮成分との関係
嗜好性テストするなら、物理的差異を均一化して最初から樹皮をチップ状にして比較しないとダメでしょうし(まあそれ以前に樹皮を初めて食べる個体以外は、記憶で餌=樹皮食い行動に関する情報も経験的にインプットされている可能性がある 「ニレ類 匂い 優先して食べるもの」みたいに)、このように配置するとエゾシカは索餌行動を省略出来てしまうのでその分のエネルギーがかかりません。リスクやエネルギーを費やしても食べるのか目の前にあるからかじるのか?それと20cmくらいを雪中に埋めて立てたとありますが、倒れたり傾いた時に食べられていれば、嗜好性とは言えなくなってしまうと思いますが、どうなんでしょう?目の前に並べてある樹皮を1,000㎠優先的に剥がしたからといって、数か月間の越冬期において雪の中索餌と採餌を繰り返し、さらに次第に痩せていく状況で、エゾシカが生存のためにとる採食行動においても、同じように説明出来るでしょうか?
エゾシカに対する樹皮嗜好性試験 : 積雪期における野外試験


この2つの論文でヤチダモが注目されていますが、ヤチダモのリグニンの割合がニレと同レベルなら、もっとヤチダモにあからさまにアタックしてもいいようにも思えます。ところが、実際の剥皮面積はニレ類が断トツの1位で、ヤチダモがニレよりも剥皮されている越冬地は皆無です。ちなみにアオダモはよく食べられます。これもニレほどではないですが結構剥がしやすいです。

ヤチダモの選択順位は、阿寒湖畔で12-4月に断続的に長期間樹皮食いが生じていた時に数ヘクタールの固定区内で観察していましたが、
ニレ⇒ケヤマハンノキ⇒エゾイタヤ ヤチダモ ミズナラ3種がほぼ同時のような順序でしたので、ヤチダモ優先という上記論文とは相違があります。また、エゾイタヤ ヤチダモ ミズナラ3種を食べ始めた後半には、どんどん鹿は餓死で死んでいきました。ヤチダモを食べたおかげで、生存出来たなんてことは全くありません。
もしヤチダモが消化性に優れた餌であるなら、ヤチダモを食べると餓死しないで済むといった関連性がないと説得力に欠けます。

樹皮食いの被害規模に大きく影響を与えているのは、
積雪ー越冬地の生息密度ーニレ類の剥がしやすさの3点です

ニレの場合は、剥がしやすくさらにリグニン量が低いので、繊維の消化性も相対的にはいいのでしょう。

中大径木も存在する樹種で、胸高直径1mクラスにもアタックして剥がすのはニレのみで、ヤチダモの場合、25cm以上の中大径木にアタックすることはほぼ稀です。
つまり、消化性(リグニン含有率の差異)がニレとヤチダモ間にほとんどないのに、中大径木の食痕を比較すると後者はほとんど見られないことから、選択性が高い樹種とは言い切れないと思います(嗜好性が高いなら太い樹も食べようとすると考える)。もしくは成長するとリグニン含有率が増加する樹種なのかもしれませんがそうであるなら、他の樹種も増加するのではとも思います。

ヤチダモは嗜好性は高いけれども剥がせない樹種と仮定しても、結局越冬期かつ積雪期の鹿は、嗜好性で索餌や採餌をしているわけではなく、エネルギーの節約と効率を重視しているでしょう。つまり歯の構造を見ても、餓死寸前の状況下であることを考慮しても、栄養価の高い夏の餌の選択や嗜好性、消化性ならさておき、低栄養で得るものよりも失うものが多い樹種選択性にわずか数%程度の消化性差異を関連付けても、無理があると思います。

上記論文では、分析や野外試験を元に、消化の良い餌を選択する方が生存に有利だと説明しておりますが、索餌に費やすエネルギー(雪をかき分け探し回る)、樹皮を剥がす時間とエネルギー、そして絶対的な栄養価が低いのに(例えば窒素 タンパク質含有率)、消化性に注目して相対的に良い種としているニレの樹皮を食べ続けても死に至る現実を考慮していないでしょう(栄養価が高い餌の消化性と栄養価が低い餌の消化性の位置づけおよびエゾシカの生活史と季節性(生存戦略の違い)をきちんと区別すべき)。力の弱い♀や子にとって、積雪期の無駄なエネルギーの浪費は生存に有利どころか危険です。また、動き回るほど、外敵(例えばハンター)の目に留まるようになり、仮に外敵から逃げる場合はさらにエネルギーを雪中で浪費します。つまりエネルギーを得ることよりも、失うことの方が大きな問題となる時期の樹皮食いについて、樹皮の成分の評価だけしてもあまり意味が無いと思います。

 冬期の積雪期間が短い地域であれば選択性にも融通が利く可能性はありますが、推測の域です。樹皮ではなく、シカが容易に食べやすい細い灌木レベルだと枝を食べて枯らしてしまう場合が多いですが、一部の種(例えば針葉樹トドマツなど)を除けば、優先順位はあるにしても、樹皮の選択性が低い樹種も含めて多くの樹種が食われて消失します。