2021/05/09 15:07








春の森の林床には、雪解け後にフクジュソウ、カタクリ、エゾエンゴサク、エンレイソウ、ギョウジャニンニク、フキノトウなどが姿を現し、短期間に開花してアリ、ハチ、アブなどの訪花昆虫の助けを借りたりして結実します。
これらの植物(フキやギョウジャニンニクはやや違いますが)は、まだ林冠(樹冠)が葉に覆われ、林床が暗くなる前に開花結実を終えてしまいたいのです。また、蜜や花粉を得たい昆虫から見れば樹木の花の開花よりも先に開花しているのは有難いことでしょうし、植物は花が少ない時期に開花すれば確実に誘引できます。
これらの植物は平坦な場所にも存在しますが、斜面特に陽当たりの良い南向き斜面に群生している場合も多いです。
斜面は、冬の間も陽当たりや傾斜の影響で積雪量が少ないので、雪どけも平坦地より早い傾向があります。
一方、再び雪が降る場合もあります。
これらの植物にとって、嫌な存在競合相手はササでしょう。
そこで、このササを食べてくれる鹿が時に春植物の見方になる場合もあります。
シカも積雪期に雪が少ない場所や陽当たりが良い場所を好むので、これらの斜面は餌場になります。
餌場では冬期主食のササの葉を掘り起こしたりして食べますので、ササの葉が無い状態(ササは生きている)になります。
ササの葉は1枚ずつ順次展開されるため、シカに食べられ葉がないササの稈から早春に葉がいきなり沢山出てくることはありません。
また大型のフキなども春植物が開花している時期と葉を大きく広げるタイミングにはズレがあります。
さらに鹿は落ち葉などを掘り起こしたり、糞尿を集中的に投下(施肥みたいなもの)したり、樹皮食いして木を枯死させたりします。
ササが密生していると、地表に光が十分届かず、またリター(落ち葉の堆積)も増えて春植物には不向きな場所になります。
鹿は、春になると斜面以外の場合も使いますし、移動して消えてしまう場合もあります。そうなれば斜面の春植物は食われません。フクジュソウはキンポウゲ科の毒草。
一方、例えば知床半島の保護区にみられるように、シカが年中同じような場所にいる場合、密度が高すぎて餌不足の場合、斜面の利用頻度が高すぎて地表が浸食されたり、樹皮食いで木の枯死率が高い場合、ササが完全に衰退消失してしまう場合などは、シカの存在がマイナスに作用してしまいます。鹿の存在がプラスに働く場合もあれば、マイナスに働く場合もあるということです。大体鹿の存在が植物にネガティブに作用するのは、保護区の固定化によるところが大きく、保護区の中で鹿が増えたからというのは一因に過ぎません。草食動物を上手くコントロールすれば、トナカイやモンゴルの家畜の遊牧民族のように、餌である植物に大きく負荷をかけないことは可能ですが、保護区の中で増えた鹿は害獣だから減らせばいいという単純な発想をしている限り、遊牧民族のレベルには達しません。あと保護区の外が、開発されたり農地や都市になってしまえば、保護区の森林や湿原にさらに負荷をかけることになります。ただし、農地を利用する鹿は、保護区の外の農地も利用しますから保護区周辺にある農地は被害を受けやすくなります。冬期間は、保護区の外で行われる狩猟が保護区の生息密度を高めてしまう場合もあります。この場合は、銃猟による場合がほとんどでしょう。保護区もしくは保護区外で、ワナ捕獲をする場合は軽減されると思います。さらに積雪はどう影響するかと言えば、冬期の被害量は、生息密度と積雪量(積雪期間)にも左右されますので、
理想形は、雪の少ない場所に適度な生息密度で広範囲に分散しているパターンが被害が1番少ないわけです。ところが実際は、雪の多い保護区に高い生息密度で偏在してしまうことがよくあります。わざわざ雪の多い場所にいる理由は、越冬に適した生息環境が保護区に多いことと保護区外の銃猟や駆除圧です。その典型が阿寒湖周辺です。
オオカミがいると、シカは同じ場所に高密度で長期間長時間滞在出来なくなり、1カ所あたりの採食圧が軽減され調和がとれることになります。ただし、オオカミすらも近づけない急斜面に鹿が逃げ込んだ場合は例外になります。

追伸
フキノトウから高い抗がん作用成分
フキノトウ苦み成分「ペタシン」がん抑制 増殖・転移を阻害
岐阜新聞 20210902
岐阜大大学院の創薬研究グループは、日本原産植物のフキノトウに多く含まれる成分ペタシンががん細胞の増殖と転移を抑制することを発見した。増殖、転移を阻害する既存の化合物と比べ1700倍以上の効果があり、正常な組織への副作用を抑えつつ、抗がん効果を発揮することも立証した。
https://www.gifu-np.co.jp/news/20210902/20210902-102457.html
*だからと言って春に食べ過ぎると、カリウム過多など別の問題が生じますのでご注意下さい。

エゾシカが健康体であるその秘訣の一つはこの山野草の選択的採食にあると思いますが、さらに鹿が選んで食べた植物が発酵消化されていく胃の内容物を狙って食べたいと思うのが野生のオオカミであり、その子孫の飼い犬ということになります。